たちかぜ裁判(1/26判決)ってなんだ

2月13日(日)19時~のキチアルTVの特集は「たちかぜ裁判にみる自衛隊の隠蔽体質」です。

では、たちかぜ裁判とは?


護衛艦たちかぜイジメ自殺訴訟について
2011年1月13日
護衛艦たちかぜイジメ自殺訴訟弁護団
概要
2006年4月5日に訴訟を提起した「護衛艦たちかぜイジメ自殺訴訟」は、本年1月26日に判決言渡期日を迎える。
この訴訟は、海上自衛隊の護衛艦たちかぜに2003年12月に配属された青年が、同艦への配属後、先輩隊員から、たちかぜ艦内で日常的にイジメを受け、これを苦に2004年10月27日に自殺したことについて、遺族が国と先輩隊員を相手に起こした国家賠償請求訴訟(先輩隊員に対しては損害賠償請求訴訟)である。
青年は、先輩隊員から、指導という名の下に殴られたり、蹴られたりといった暴行を受けた他、先輩隊員が規則に違反して艦内に持ち込んでいたガスガンや電動ガンで撃たれたり、アダルト映像が録画されたDVDやCD-Rの購入代金という名目で、金銭を脅し取られるといった被害を受けていた。
先輩隊員は、青年がたちかぜに配属された時点で、既に同艦に6年余り乗艦している古参の隊員であった。そのため、階級及び正規の指揮命令関係においては上位にある幹部自衛官たちも、先輩隊員の犯罪行為を認識しながら、これを黙認していた。
例えば、青年及び先輩隊員が属していた第2分隊の分隊長は、2004年5月の時点で既に、青年から、先輩隊員にガスガン等で撃たれていることや殴られていることについて申告を受けていたが、これを放置した。同じく第2分隊の分隊先任海曹は、2004年10月1日に、分隊員の送別会の宴会場で、先輩隊員にガスガン等で人を撃つなと指導したものの、先輩隊員から今後は後輩隊員を撃ったりしないから引き続きガスガン等を艦内に置かせて欲しいと頼まれると、安易にこれを許可した。また、青年及び先輩隊員が所属していた第22班の班長は、日常的に先輩隊員の犯罪行為を目の当たりにしていながら、先輩隊員を注意することすらしなかった。
護衛艦が一旦出港すると、乗艦している隊員たちは、長期間、閉じられた艦内での生活を余儀なくされる。そのような物理的な閉鎖感に加え、幹部自衛官が先輩隊員の犯罪行為を放置し続けたことは、青年にとって重い精神的負担となった。
先輩隊員からの継続的なイジメと、幹部自衛官たちの無責任な対応によって追い詰められた青年は、2004年10月27日、自ら21歳の短い人生に幕を下ろした。
自らを自殺へと追い込んだ先輩隊員を呪い殺してやると書いた遺書を残して。
なお、青年の自殺後、先輩隊員の犯罪行為は、ようやく自衛隊内でも重大な問題として扱われ、警務隊による捜査が行われた。そして、青年とは別の複数の後輩隊員を被害者とする暴行及び恐喝については起訴がなされ、2005年1月19日、横浜地方裁判所横須賀支部において、懲役2年6月、執行猶予4年の判決が下されている。

特徴
本件を通じて顕著になったのは、防衛省・自衛隊の隠蔽体質である。
遺族は、当初、警務隊による捜査によって真実が明らかになるのではないかと期待し、警務隊の捜査に積極的に協力した。しかし、自衛隊側は、先輩隊員のイジメと青年の自殺とは関係無いとして事件の早期の幕引きを図った。
そこで、遺族は、自衛隊が行った調査記録の公開を求めて、情報公開手続による情報公開を求めたが、開示された資料は、ほとんど全て墨塗りの状態であった。
このような防衛省・自衛隊側の対応を受けて、遺族は、真実を明らかにするには訴訟に踏み切るよりほかないとの思いに至り、本件訴訟を提起した。訴訟の中でも、国側は調査記録の開示に一切応じなかったため、弁護団は文書提出命令の申立を行った。
文書提出命令をめぐる攻防の中でも、国は、調査記録を開示することで、今後の同種事案における自衛隊の調査に支障が生じる等として、徹底して記録の開示を拒み続けた。最終的に、遺族が開示を求めた文書の大半が文書提出命令によって訴訟の場に提出された。しかし、文書提出命令をめぐる攻防のため、2年近い時間が費やされた。
さらに、証人尋問においても、国側の証人として証言した当時のたちかぜ幹部たちは、事実と異なる証言を繰り返した。本件では、青年の同僚の内3名(内1名は現在でも自衛官である。)が遺族側の証人として証言した。これに対し、国側の証人は、青年の同僚たちの証言を弾劾するため、実際には行っていない聴き取りを行ったと証言したり、聴き取りの中で同僚たちが話してもいないことを聴取したと証言するなどした。そのような証言の中で、たちかぜの当時の砲雷長は、あろうことか、当時既に亡くなっていた証人の父親と電話で話をしたなどと証言したのである。
既に亡くなっていた者と話をしたなどという証言は、国側の証人の証言のいい加減さを象徴するものであり、同僚たちの証言と真っ向から食い違っている国側の証人の証言が信用できないことを端的に示すものである。
このように、防衛省・自衛隊側は、事件直後から本件訴訟を通じ、一貫して、先輩隊員のイジメが青年を死へと追いやった事実を否定し続けた。そのため、事実を隠し、矮小化しようと試み続けてきたのであった。このような防衛省・自衛隊は、防衛省・自衛隊の隠蔽体質が強固で根深いものであることを如実に物語っている。

訴訟の意義
軍隊組織の常として、暴力を容認あるいは助長し、人命を極度に軽視する風潮がある。自衛隊も、その実質は軍隊であり、旧日本軍以来の人命軽視・暴力容認の悪しき伝統を引きずっている。
そのような自衛隊に対し、護衛艦さわぎり内での上官によるイジメによって自殺へと追い込まれた隊員の遺族が起こした訴訟において、福岡高等裁判所は、2008年8月25日、国の安全配慮義務違反を認め、イジメと自殺との因果関係を認める判決を下した。また、航空自衛隊内でのイジメによって、同じく自殺へと追い込まれた隊員の遺族が静岡地方裁判所浜松支部で訴訟を闘っているが、遺族からの請求を受けて、昨年12月10日付で当該自衛官の死は公務災害と認定されている
この他、上官によるセクハラの被害を受けた女性自衛官が国及び上官に対して損害賠償を求めていた訴訟で、札幌地方裁判所は昨年7月29日、国及び上官に損害賠償を命じる判決を下している。
さらに、広島県江田島市の海上自衛隊基地内での徒手格闘訓練中に命を落とした隊員の遺族や、北海道の陸上自衛隊真駒内基地内での徒手格闘訓練中に命を落とした隊員の遺族も、現在、訴訟を闘っている。
これら一連の訴訟は、自衛隊の人命軽視・暴力容認の体質の犠牲となった被害者・遺族の闘いである。そして、本件も、これら一連の訴訟の一つとして位置づけられるものであり、自衛官の人権を守っていくための訴訟の一つである。
平和憲法の下、自衛隊の存在自体が許されるのかという大きな問題はあるが、その点を措くとしても、自衛隊も国民主権・基本的人権の尊重・平和主義といった平和憲法の基本原則を蔑ろにすることは許されない。しかるに、一連の事件に象徴されるように、自衛隊は、いまだに旧日本軍以来の人命軽視・暴力容認の悪しき伝統と決別できないでいる。この重大な事実と、隊員に対して国が負っている責任の重大性を司法の場において明らかにすることは、自衛隊に、自衛官の人権を守り、平和憲法の基本原則を尊重・遵守させていくための大切な一歩である。

法的な論点
①国の賠償責任を認めるか
②先輩隊員の賠償責任を認めるか
③自殺との因果関係を認めるか
の3点にある。
この内、国の賠償責任については、先輩隊員の犯罪行為を放置した幹部自衛官らの職務怠慢が、青年に対する安全配慮義務違反にあたり、国に賠償責任を生じさせる法的構成と、先輩隊員の犯罪行為そのものが自衛官としての職務に関連して行われたとして、国に賠償責任を生じさせる法的構成が考えられる。
次に、先輩隊員の賠償責任については、とりわけ先輩隊員の犯罪行為が自衛官としての職務に関連して行われたとして国に賠償責任が認められた場合、公務員個人は責任を負わないとしている判例法理との関係が問題となる。
最後に、国あるいは先輩隊員に賠償責任が認められたとして、幹部自衛官らの安全配慮義務違反あるいは先輩隊員の犯罪行為と青年の自殺との間に因果関係が認められるかという問題がある。
本件における直接の加害者は先輩隊員であるが、先に述べた本件訴訟の意義に鑑みれば、国に賠償責任が認められるかという点が最も重要である。同時に、先輩隊員の暴走を止められなかったことだけでなく、青年の自殺に対しても国に責任があったことを明らかにするという意味では、青年の自殺との間に因果関係が認められるかという点も、非常に重要な意味を持っている。

(参考)国家賠償法とは
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO125.html